ストレッチについて
2023/07/05
在宅ワークなどが増えてきた近年では、家でストレッチなど簡単な運動を始めている方も増えてきています。しかし、一口にストレッチと言っても目的に合わせてやるべきストレッチは変わってきます。たとえば、運動前にゆっくりとストレッチをしている人、身体を柔らかくしたいのに反動をつけてストレッチしている人など、一概に間違いとは言えませんが目的によって選択すべき効率的なストレッチがあります。今回は様々なストレッチの種類について説明していきますので、ご自身の目的に合ったストレッチができるように是非覚えてみてください。
目次
ストレッチの種類
まず、ストレッチはバリスティックストレッチングとスタティックストレッチング、大きく2つに分けられます。
・バリスティックストレッチング
反動をつけ筋を伸張させる方法をバリスティックストレッチングと言います。
反動をつけた急激な筋伸張は、筋の長さの変化を感受する筋紡錘を興奮させ、Ⅰa神経線維により脊髄後角を経て脊髄前角に存在する運動神経細胞を単シナプス的に直接興奮(脱分極)させることで反射性の筋収縮を促します。このメカニズムは伸張反射(stretch reflex)と呼ばれ、腱反射の検査にも応用されています。
打腱器で膝蓋腱あるいは上腕二頭筋腱をごく小さな力で叩くことにより、膝関節伸展や肘関節屈曲などを引き起こす筋収縮を促すことになります。したがって、バリスティックストレッチングはストレッチングに期待される筋緊張の抑制効果とは逆に、筋緊張を亢進させることが予測されるため、筋の柔軟性を高める目的には適しません。
・スタティックストレッチング
反動をつけずにゆっくりと筋を伸張し、その肢位を数十秒間保持するストレッチ方法をスタティックストレッチングと言います。
スタティックストレッチングは筋を伸張した際、筋および結合組織からの抵抗が生じた時点で保持すると筋腱移行部に多く存在するゴルジ腱器官という受容体がその刺激を受け取り、Ⅰb神経線維を介して、脊髄の後角までインパルスが伝播されます。脊髄内では脊髄前角細胞とシナプス結合している介在ニューロンがⅠb神経線維からの信号を受け取り、介在ニューロンの興奮は、脊髄前角細胞の電位を下げ、脱分極を抑制します。
その結果、スタティックストレッチングは当該の筋緊張を低下させることから、運動前に特に筋緊張が亢進している場合や運動後の筋緊張低下を目的として、スポーツ選手のみならず一般の人々がトレーニングする場合においても広く受け入れられるようになりました。
リハビリテーション領域で用いられるストレッッチ
リハビリテーション領域においてストレッチングは主に筋伸張性の改善、結合組織の粘弾性低下、関節可動域の改善を目的とすることが多いため、スタティックストレッチングが多用されます。一方、関節拘縮の原因は先天的なもの以外、①皮膚性拘縮②結合組織性拘縮③筋性拘縮④神経性拘縮⑤関節性拘縮に分類されています。
これらの中で、皮膚性、結合組織性、筋性拘縮はそれぞれ軟部組織が直接拘縮の原因となっています。さらに神経性拘縮は痛みなどによる反射性収縮や中枢神経障害による筋緊張異常などが原因とされており、軟部組織の関与が推察されます。また、関節性拘縮は関節を構成する軟部組織である滑膜、関節包、靭帯、関節周囲組織などの炎症または外傷によって、これらの萎縮または癒着で起こった拘縮と定義されており、少なからず軟部組織が関与していることがわかります。
これらのことより、関節拘縮においても、その原因は結合組織あるいは筋などが含まれる軟部組織の機能的変化によることが多いため、関節可動域を改善するためには軟部組織に対するスタティックストレッチングが適応となります。
・IDストレッチング(個別的筋伸張法:individual muscle stretching)
IDストレッチングは伸張性の低下した個々の筋を対象とし、筋緊張の低下、関節可動域および柔軟性の改善、筋痛の緩和、血液循環の改善、傷害予防、パフォーマンスの向上などを目的として、個々の筋線維の走行および筋連結を意識した他動的なストレッチング方法であり、スタティックストレッチングの範疇に分類されます。
スポーツ領域で用いられるストレッチ
スポーツ領域におけるストレッチングの大きな目的は、ケガの予防とパフォーマンスの向上です。この2つの目的には異なる筋緊張の変化が求められます。ケガの予防には痛みを軽減するとともに筋緊張を低下させ、柔軟性を改善することが求められます。
過去の研究で下腿三頭筋に引き起こした遅発性筋痛がスタティックストレッチングにより、歩行中の痛みの程度と圧痛閾値が低下したと報告されています。その一方で、スプリントタイム、ジャンプ力、キック力、筋出力などのパフォーマンスを向上させるためには瞬発的な動きが求められるため、筋緊張はあるレベルに保っておく必要があります。
このようにスポーツ領域ではケガの予防とパフォーマンスの向上を同時に求められるため、個々の筋緊張の状態を十分に把握し、緊張を低下すべき筋、緊張を高める必要がある筋を評価し、目的に合ったストレッチングを使い分けることが必要です。
具体的には、コンディションがいい状態ではパフォーマンスの向上を第一に考え、競技前にウォーミングアップとともに後述するダイナミックストレッチングを行い、筋の反応性を高めることが適しています。
一方、筋肉痛あるいは筋肉の張りを感じているような場合は、まず当該の筋肉を特定し、疼痛緩和とともにスタティックストレッチングを行うことで、周囲の筋と同程度に筋緊張を低下させ、その次に全身的なウォーミングアップとダイナミックストレッチングを行うことでケガの予防とともにパフォーマンスの向上を図る必要があります。
・ダイナミックストレッチング
スポーツ領域で多用されており、動きの中で目的とする筋をストレッチングする方法で、その効果としてはスプリントタイムの短縮、筋力の増加などが報告されています。これらの報告によりダイナミックストレッチングは運動前のアスリートにとって必須とも言われています。競技前のスタティックストレッチングによる過度の筋緊張低下は、俊敏性、巧緻性、筋出力の低下などを招き、かえって逆効果になることもあります。
・PNFストレッチング(固有受容器神経筋促通法:proprioceptive neuromuscular facilitation)
PNFとは、主に中枢神経障害に由来する運動障害に対してヒト本来の動きであるdiagonal patternを利用して運動負荷、もしくは運動介助し機能改善を図る方法で、リハビリテーション領域でよく使用されています。
PNFストレッチングは主にスポーツ領域で用いられており、ストレッチング前の筋収縮の様式によってホールドリラックス、コントラクトリラックス・アゴニストコントラクトに分類されます。
ストレッチのまとめ
そのほかに研究等で使用される機械を用いたストレッチもありますが、一般的に用いられる頻度が高いストレッチとその効果、目的について書かせていただきました。
それぞれのストレッチで効果や目的が異なることがわかってもらえたでしょうか。
日常的に使用するシーンとして多いのは運動前のダイナミックストレッチング、クールダウンや柔軟性向上目的のスタティックストレッチングといったところでしょうか。
目的と違ったストレッチ方法をしてしまっていた人も今日の記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。今までと違った効果が実感できるかもしれません。